空港で拉致されて最高な話1

 場所は問わず、フラフラと自由がきく一人旅にハマッた時期がある。ベタな観光地やバーを巡り、そして現地で知り合ったヤツラとパーティで壊れたりと、ずいぶん楽しい思いをさせてもらった。そんな王道の旅行記も素敵だけど、今日はあえて別の角度から攻めてみようと思う。

 確か春あたりだったかな、ハチャメチャの旅行を終えた俺が成田空港のゲートをヘロヘロの状態で出て行くと、国際電話でやり取りしていた通りに悪友のノビーがデカい黒キャデで迎えに来てくれていた。疲れた体に迎車は本当にありがたい。

「お前の荷物と俺の彼女は後ろに積んで、お前は前に乗りなよ」

 トランクを乗せてから前座席に移動すると、突然ノビーの飼ってる犬ッコロが俺に襲いかかり、飛行機で乾燥した俺の顔中をベロンチョベロンチョとモイスチュアライジングしてくれた。ドッグフード臭いのはご愛嬌ってもんさ。

 空港の乗降エリアから車を出した途端にノビーがジョイントに火を着けて俺に手渡し、「おかえり~!どうだった?」とテンションマックスで訊いてきた。パーティでイカレてスピーカーに頭をねじ込み続けてる男がいたとか、荷物をテントごと盗まれたハードコアなネーチャンがいたとか、旅の土産話を聞かせていたところ、気付けばノビーの運転する車は首都高の南側を走り渋谷線に抜けようとしていることに気付いた。

 おい、俺の家はこっちじゃねーぞと言うと、いや~、今夜はこっちなんだよね~と意味の分からないことを言う。いやいや、疲れてるからマジで帰りたいんだけど…などという俺の心の叫びは彼に届くことなく、ほどなくして青山の小さな箱へ到着しちまった。俺の体力ゲージは黄色い危険信号を点滅させているというのに、この男はオールナイトのパーティにそんな俺を連行しやがったのだ。

  ノビー、俺は、マジで、疲れてるのさ。頼むから今日は帰らせてくれ。八割方マジのイライラで、車の中はだんだんとピリついたムードになってきた。「今日はタツもササキも回すんだぜ?だからさ~」いや、そういう話じゃねーんだ。疲れてんだってマジで!

 そう強めに言ったところでノビーは舌打ちして「わーかった、わかったよ、コレ食えば大丈夫だから、なっ!ラオちゃんよ!」と手のひらの上で輝く二つの錠剤を俺に見せつけた。え?バツ?なんか大きくない?初めて見るブランドだな。名前は???

 見事に食い付いた俺を笑いながら、ノビーは解説してくれた。最近ヨーロッパから入った新ネタで、名前はサンシャイン。大きさから見るとたぶん2in1のシャブ玉だろう、とのこと。

 新しいブランドで2in1でシャブ玉だと!そりゃ食いたいだろ!疲れてるけど、この突発イベントはいい予感がしてきたぞ!ノビーサンキュー!さっそく頂くわ!

 一瞬でテンションを切り替え、ノビーの手から一粒奪って口に放り投げ、ちょっとだけ噛み砕いてジュースで流し込んだ。噛んだときに聞こえたジャリッという音と、すぐ砕ける錠剤のモロさから考えても、うーん、バチバチのシャブ玉だろうなぁ。そんな俺に対し「こんなものよく噛み砕けるな…」と渋い顔のノビーではあるが、同じタイミングですでに残った1錠はヤツの胃袋の中だ。

 すぐ近くの駐車場に車を停めてクラブへ向かった。出入り口には知り合いもいなかったが、DJのゲストということでそのまま中へ。階段を下るとソファが二つ、その右手にトイレで、その奥はロッカーになっていた。

 また別の階段を下るとDJブースが離れて二つあり、片方ではすでにタツがガンガンに頭を振りながらゴアを回していた。タツはとにかくバカで面白いキャラの人気者だ。まだ早い時間なのに、ギンギンで打撃音を鳴らしまくっていた。

 挨拶でもしようとブースのギリギリまで近づいたのに、タツはターンテーブルにかじりついて俺になかなか気付いてくれない。仕方なく「タツー!元気ー?」と叫ぶと跳び跳ねて驚き、「ラオー!いつ帰って来たんだよ!」とめっちゃ笑顔で訊いてきたんだが、その様子が明らかにおかしいんだよね…。そこまで暑くないフロアなのに汗だくで、ファッションアイテムもアベコベでガチャガチャ、リズムもビミヨーにズレてる感じ。よくよく見れば、目玉が真っ黒だ。

 タツは俺と同じでネタに関しては一切の我慢もできないタイプの人間だ。それも知ってたんでストレートに何を食ってるのか訊いてみたら、ギラギラに見開いた目で「今日はシャブでアゲるに決まってんでしょ!」と嬉しそうに教えてくれた。ほんとにロクデナシだらけだな…。

 タツがちょっと話にならない感じだったんで少し酒を飲みながら散歩してたらササキとすれ違った。今はDJの準備で忙しいからあとでゆっくり!とのことだが、そのときに俺が会話できる状態である可能性は低いな。そう思いながらまた歩き出すと、急に腹がギュルギュル鳴り始めた。急いでさっきのトイレへ駆け込みギリギリでウンコを処理したと思ったら、今度は玉の吐き気が猛烈に襲ってきた。これで吐いたらもったいないとは思ったけど、体調的にも限界だったから少しだけ吐いてしまった。しょんぼりしながら汚してしまったところをペーパーで拭いていると、いきなりドアをガンガン叩く音が。入ってるよーと返すと「なっげーんだよテメー」と怒られたので、掃除も途中のままドアを開けたらもう誰もいなくなってた。

 あーいろいろ気分わるーと思ってフラフラとさっきのソファまでたどり着くと、すでにノビーがそこで仰向けにぶっ倒れていやがるじゃねーか。オメー大丈夫かよーと足を叩いたら、「ラオはまだアガらねーの?これヤバイわ。動けねぇ…」と言ってまたソファへ沈んだ。

 俺はそこまでじゃねーな、と思ってまた散歩行こうとした瞬間、ゲートが開いた直後の競走馬みたいな勢いでエクスタシーが体を駆け抜け、腰を抜かしたようにもうひとつのソファへ俺も倒れ込んでしまった。

 あ、これ、ヤバイわ…。

 アガリの速度とパワーがとんでもなかった。サンシャイン、忘れもしねーよ、あのグデグデハッピーは。

 しばらくそのままノビーとヤベーヤベー言い合ってた。そんな状態でも目の前を通ってフロアへ向かうギャルがかわいくてね!バキバキドロドロのハッピーとムラムラがノンストップのサタデナイよ!

 そこへすかさずノビーが「ラオ、せっかくのパーティなんだから風俗行くとか言うなよ…」と息も絶え絶えで忠告してきた。こいつはテレパシーでも使えるのか?クソッ!こうなったら自爆しかない!覚悟しろノビー!

「飛行機で疲れてるからマッサージ行ってくるね」

 またかよテメー勝手に行って来いよッタクよー!というノビーの激励を背に、悠々とクラブを後にする俺だった。