ニューヨーク南6番街の奇跡1

 えーと、久しブリッ!今日はね、仕事でニューヨークへ行った時の話をするよ。前回の投稿から半年以上経ってるけど気にしないでイキまっしょい!

 昔、テレビ関係の仕事をしていたことがある。コーディネーターなんてシャレオツな呼ばれ方してたけど、つまるところ撮影に関する雑用全般が俺の仕事だ。例を挙げるならば、ディレクターの指示でADが買ってきたお茶を全員に配る係が俺、みたいな?すごく雑で最下層な感じでしょ?

 仕事内容的には難しいことなんてひとつもないんだが、ただひたすらに忙しく、ただひたすらに怒られる毎日。すみません、すみません、次は忘れないようにします、と、何百回アタマを下げただろうか。忘れたことはもう忘れちゃったので残念ながら覚えてないですねぇ!なんて、一度でいいから言い返してみたかったけどね…買い物やら出迎えやらサンザン飛ばして仕事になってなかったのは事実だからさ、とりあえずいつもその場はヘコヘコに謝って、ヘコんだフリしてトイレに籠もり、換気扇の下でクサを一服して仕事に戻ればそこはもうパラダーイス!目の前でキャワワなアイドルがプリプリしてるのをブリブリしながら視姦できるって、なかなか素晴らしい環境だよね。まぁそれでまた何か忘れるんだけど。

 そんな、いつ首を切られてもおかしくないような状況の中、海外での大きな仕事になぜか俺も同行するよう命ぜられた。えっ!?会社の金で旅行できんの!?って思うじゃん、フツーに。いくら旅行気分だと困るぞと言われても、実際に旅行なんだから仕方ないだろ。しかも出張先は憧れのロサンゼルス、その上に仕事内容も実に楽チンでさ、現地コーディネーターにほぼ丸投げすれば完了するような、確かに俺みたいな無能でもこなせる内容だったわけ。

 撮影スケジュールも順調に進んだある日、有り得ないことに現地休暇というレアイベントが発生した。もちろん俺はその休暇を満喫しようとする日本人スタッフのお守りをするハメになるわけだが、一人の若いディレクターさんがどうしても行きたいとダダをこねた野外パーティに同行することになった。なにやらヒップホップのフェスらしく、サイプレスヒルってヤツが主催してるスモークアウトってイベントらしい。名前的には期待できちゃうけど、仕事相手が一緒じゃぁさ…。

 ま、でも結果的にはスゲー楽しかったよ。周りのヤツらがホント全員吸ってるから、野外のクセにポットボックスにいるみたくハイになっちゃうワケ!立ち込めるケムリでムセるレベル!さすがスモークアウトをうたうだけのことはあるってとこだ。そしてこの若いディレクター、なかなかやるな!こいつ絶対この現地休暇とフェスもコミでスケジュール組みやがっただろ。

 ステージ内容は俺の苦手なヒップホップばかりだったからビミョーっちゃぁビミョーだったんだけど、副流煙で十分にラリパッパにもなれたし、途中ではぐれたディレクターも探さないまま音にまかせてユラユラ揺れてるのも悪くなかった。

 金とバイオレンスとドラッグとセックス…そんな後ろ向きな歌詞ばかりがずっと続く中、「ノー・ガン!ノー・ドラッグ!」をひたすら熱くラップで訴えるドレッドのお兄ちゃんに心底感動したり、悪ふざけしたサイプレスヒルが3メートルくらいある特注ボングに山ほどネタを載せてバーナーで火を着け、そのケムリを吸わされた高齢の白人司会者がブッ倒れたのを見て笑いが止まらなかったりと、なかなか興味深い経験をさせてもらった。

 ちなみに例の若いディレクターは、副流煙でヤラれてずっとどこかに座っていたらしい。こういう可愛い間抜けは嫌いじゃない。おかげでこっちは自由で楽しい休日を頂けたわけだしな。

 そんで、次の日からまた続いたロサンゼルスでの撮影も終わりに近づいた頃、日本の本社から連絡が入った。ニューヨークでクリスマスまたぎの仕事があり、そこで欠員が出たから今度はそっちへ飛べと。えっ!?これってアメリカ横断旅行じゃん!そりゃもう喜び勇んで行ったよね、ニューヨーク。

 でね、細かいところスッ飛ばすけどさ、紆余曲折の数日間を駆け抜けた後、俺、なんと現地でクビになった。こんなことあるぅ!?出張先で解雇って…いやこれマジの話だから。

 しかしまぁ先にも書いた通り毎日怒られてばっかりでいい加減辞めたいなーと思っていたところだったからさ、(元)上司と別れた後はもう完全にスッキリしちゃってね、ただのニューヨーク観光気分だよジッサイのところ。ハレルーヤ!ビバフリーダーム!自由の女神バンザイきゃっはー!って感じ。

 クリスマス前のニューヨーク、突然のクビ通告によりすべてから解放された瞬間、ラオは一体何を想うのか…!

 と、ここまで前置きが長くなりましたが、そろそろ始めましょうか、ほらうそらしい、お話を。

 ホント冗談みたいな話だと自分でも分かってはいるが、本当の本当に世界の中心マンハッタンでリアル解雇された俺は、まだ日の高いビルの街をスキップしながら(元)上司に渡された日本行きのチケットを公衆ゴミ箱へ破り捨て、かの有名な…ビッグアップルって言ったっけ?あの交差点をフラフラと南に下りながら安い宿を探して歩いた。中心部からほんの10分も歩かないあたりでユースホステルを見つけたので、とりあえずの一晩をそこで過ごすことに決めた俺は、すぐに金を払って今夜のベッドを確保した後、近くのスーパーへ行きモルトリカーっていうビールの失敗作みたいな安酒を山ほど買い込み、ホステルのラウンジで一人静かに飲み始めた。

 インターネットも無い時代はさ、情報は旅先で仕入れる物だったんだよね。ドラッグ関係は特に、「旅(トリップ)の情報は旅人に聞け」という標語がマジであったくらい、旅行者同士で常にアンテナを張り巡らせているのが当然だったんだ。だからその時もラウンジで誰かを捕まえて酒を飲ませつつ、あわよくばそいつの持っているハシシでも分けてもらたら、なんて甘いことをほろ酔い気分で考えてニヤついていた。

 しかし結果的には収穫ゼロ。その日の客層がアジア人の俺を毛嫌いするようなヨーロッパ系のシケたヤツばかりでさ、挨拶だってロクに返って来やしない。

 こうなったら仕方がない、足で歩いて探すしかないよね。しかしラウンジでしばらく粘っていたせいで外はもう暗くなっている…うーん、ニューヨークの夜ってけっこう危ないんじゃなかったっけ。少し緊張しながらユースホステルを出た目の前のスタンドで一箱1500円もする店内最安値タバコを買い、咥えながら火を着けようとしたその矢先だ、細く長いドレッドヘアーを揺らすデッケー黒人に声を掛けられた。宿を出て1分も経っていない。ヤバい、ニューヨーク怖い。

「ハイ!俺はハスラー、よければキミのタバコを一本くれるとありがたいんだが」

 話し方に微妙なチセーとツツシミを感じる話し方であったが、チリチリの細いドレッドに大門サングラスの巨漢、腕なんて俺の太ももくらいありそうだし、これでナイフやら銃でも出されようものならさすがのラオちゃんもクソ漏らしながらソッコーで土下寝するだろう。いや、むしろクソを漏らし散らしてクレイジーっぽく逃げる方がこの場合ならむしろ正解なんじゃないかと思えるような巨躯の男を前に、その目をまっすぐに見据えながら俺はこう言ってやったのさ!

「アーイ!ニード!マリワンナ!スモークスモークOK?」(ジャパニーズスマイルニッコリ)

 ジョイントを吸うようなジェスチャーをする俺を見てその兄ちゃん、弾けたように笑ってたよ、肩を上下に揺らす黒人独特の笑い方で。

アジア人にクサ吸うヤツなんていたのか…クックックッアーッハッハー!」

 バシッと豪快に俺の肩を抱き、そのまま笑いながら歩き始めるハスラーに少し戸惑う俺。まぁ俺のクソ英語も理解してくれたようだし、知り合いのプッシャーの所にでも連れて行ってくれるのか?そう期待しながらタラタラと夜の街を二人で歩いた。

 時折、ハスラーは知人を見つけると陽気に挨拶をし、ついでにネタがあるかどうか聞いてくれているようだったが…「俺はこの街で生まれて育った、ここは俺の街だ、この街のことは俺に聞け、俺はハスラー、この街でハッスルして生きてんのさ!」なんてダッセーこと言ってたクセに、あっちだこっちだグルグルと一時間も歩かされた上、ネタの収穫はまたしてもゼロ!なにがハスラーだバカ、コレっぽっちもハッスれてねーじゃねーか

 ネタのためとは言え、極寒の夜のニューヨークを歩き回るって、確かに俺もタイガイだなと思うわ。しかもその後も街角にたむろする黒人を見つけると「マリワナスモーク?ドゥユーハーブ?」を繰り返した挙句、プッシャーだと言う男に「ショッピングセンターの中で手渡しする」って言われてまたひたすら店内をグルグル。カメラの無い場所で金を渡してもネタを渡されないまま店内をまたグルグル。さすがにその企みに気付いた俺が早足で逃げようとするそいつを玄関口で捕まえて、モノは!?って言ったら、観念したようにパケを俺に渡してから去って行った。

 まぁホントにズルくて商売に不真面目なヤツっているもんだよね。金渡したら銃を出されそうになって逃げたこともある。でもさ、ちゃんと金出して商品を買う、という基本的なところでのズルはダメだよね…。

 んで、これでネタが手に入ったことに安心した俺は、ひとまず質の確認だ!と思い、急いでホステルへ戻って二段ベッドの薄いカーテンを閉めるが早いかポケットからパケを取り出して開封しニオイをガッツリと嗅いでみた…けど…ん!?!!?な!なんじゃこりゃー!このニオイはどう考えても紅茶だし!絶対完全に100%ニセモノだしいいいいいいいうおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 …純情を裏切られた俺は、ラウンジでおとなしく安酒をすすりながら反省したさ。あ、一応その紅茶クサイ紅茶も吸ってみたけどやっぱり紅茶だったね。大事だよね、こういうチャレンジは。

 それでもやっぱりまだ諦めのつかない俺だから、その後も外へ探しに行くんだけどね、そういうダメな日ってとことんダメなんだよねぇ…。結局プッシャーも見つからないままホロ酔い気分で歩いていたところ、道のど真ん中でバケツドラムを叩いていた若い黒人を見つけて話しかけてみたら少し仲良くなってさ、中心部で薬を探すのはいろいろな意味でリスキーだという大事なことを教えてもらった。うーん、だからと言って怖いエリアには入りたくないしなぁ。そんなことを話していると、「俺はチャーリー!明日も明後日もここか大聖堂前で叩いてるから、ヒマなら来いよ!」って笑顔で去って行った。そしてその日は結局何のネタも手に入らずという…へちょーん。

 次の日の朝早くにその宿を出た俺は、チャイナタウンを目指して黙々と歩いていた。距離感が無いからどれだけ遠いのかもわからない。しかしこの街のデリでマカロニチーズとオレンジチキンとローメンていう焼きそばというシンプルな定番コンボですら1800円もかかるという無慈悲な現実に打ちひしがれた俺は、命を守るために今一番大事な現金をセーブするため、マジで足から血が出るほど歩いた。

 夕方になって、南6番街のソーホー地区にある大き目のユースホステルを見つけた。ラウンジも大きく、奥には2口のガスレンジまである。うーん、これは何か大皿料理でも作って出してみようかな。ネタを探すついでにチャイナタウンで食材でも買って来よう。

 ベッドを確保したその足でチャイナタウンの市場へ向かって歩いた。うーん、エビも青菜も悪くないね。今夜はシーフードを中心に中華風な食い物でも作ってみようと思い、ビーフンとエビイカ、青菜関係にオイスターソース、それとは別に卵とコーンと中華ダシを買い込んだ。

 帰り際、予想以上に重くなった荷物を抱えながらエッチラオッチラ歩いていたら、たまたまタクシー運転手のサボリ場みたいなところに出くわした。色とりどりのタクシーが20台くらいかな、道路の両端にズラーッと停車してあって、運転手がみんな外でタバコ吸いながらダベってるのさ。イエローキャブじゃないことと、こんなビルの陰でさぼってる感じ、これは個人タクシーの免許も持たない、日本で言うシロタクってヤツかね?…ということは!女とか薬とか、そんな話もノープロブレムっぽくない?

 善は急いで試してみよう!ということで近づいて行ったら、やっぱり向こうからすぐに声をかけて来た。

「ハーイ!アーユー…ザパニズ?オーコンニチワー!ワタシはSKタクシーです!SスーパーKコリアンタクシー!どこ行きたい?女欲しい?今日はクリスマスイブだからネ!エクスタシー飲ませたお姉ちゃんとファッキンオールナイトだよネ!

 そいつのまるでシャブでも食ってるような超ハイテンションでの裏社会セールスをシレッと流し、いやー、俺はクサが欲しいんだけどね。あ、できればちょっといいヤツ。

 40ドル払って手渡されたパンパンのパケには真っ白く粉をふいたバッヅがギッシリと入っていた。3.5グラムで4800円、やっぱ安いよなー…。心からのサンキュー!を伝えてその場を去ろうとする俺に向かって、「エクスタシー気持ちイイヨ!なんでいらないの?今日クリスマスだヨ!」ってエレーしつこかったんだよな、あの有能スーパーコリアン。こっちはユースの相部屋でキメオナ耐久8時間なんてできるワケねーから玉買っても意味ねーのよ。でもまぁようやく手に入ったこのクサは本当に嬉しかったワケさ!

 寒い夕方、薄暗いビルの間を、重い荷物を持ち、まったくのルンルン気分で帰路を急いだ。ヒャッホー!と叫びたくなるような、これぞナチュラルハイ!ミッション達成のファンファーレが頭の中で鳴りやまない!

 ホステルに着いた俺はキッチンへ荷物を投げ捨てトイレへ直行、千切ったネタを空き缶パイプに載せたらライターカチカチのチリチリチリ…う~むむむん、これですよコレ!一発で!うーん、うむむむむ!すばらしい!

 …知らない街で質のいいネタを手に入れるということは、ある種のカタルシスを得られると同時に、複雑困難な現地情報を緻密に分析し、リスクと結果のバランスを見定めながら、顔では笑いながらも常に綱渡りの状態、極限の中で結果を残さなければならないという、つまりこれはミッションディフィカルトではない、これはミッションインポッシブルである…ってエッ!?俺今何を考えてたんだっけ?ひゃっはっは!

 …ぶっ飛んだ。あの日はマジでぶっ飛んだよ。スーパーコリアンタクシーよありがとう!

 思いっきりぶっ飛んだままキッチンでシーフードビーフン、青菜のオイスター炒め、中華風コーンスープをドカ鍋で作ってテーブルに並べたら、お好きにどうぞ!と書いた紙を貼っておく。…しかしこの日も反応が悪かった。殻付きのエビはヨーロッパ人の食指を動かさなかったらしい。

 今回も宿に当たらなかったな…とビール片手にラウンジの外、広いベランダみたいなところに出てタバコ吸ってたら、アフリカなまりの黒人とベトナム人だったかな?の二人が話しかけてきた。

「あのヌードルはお前か?食っていいか?」

 好きにしろって書いてあるんだけどなぁ。しかしまぁそれをきっかけに話し相手が出来たのはよかった。二人ともクソ真面目タイプだったが、俺がジョイントに火を着けてから誰かに渡すしぐさをすると、黒人の方だけ乗ってきた。二人で吸いながら三人で一緒にロリポップを歌った。二人とも海外旅行が初めてで、そこで見つけたヤツとタダ飯とタダ酒にクサ吸って大声で歌ってんだからきっとすげー楽しかったんだろうな。なんか脳汁出ちゃってるようなテンションで何度も同じ曲歌わされたよ。

 ただ、俺達が調子よく外で騒いでいるってのに、ラウンジの中にいる白人どもは俺のビールだけ勝手に飲みながら同国同志で話しているだけだ。これってせっかくのユースホステルなのにちょっとつまらないよねぇ。

 でもね、奇跡がね、起こったんですよコレが。

 その日は12月24日のクリスマスイブ。夜も更けてキンキンに冷えるベランダで騒いでいる俺達三人が空を見上げると、ビルの陰で四角く切り取られた小さな空に綺麗な月が煌々と照らされているじゃないか。これは…ヤバイ…セッティングがヤバ過ぎる!

 しばらくそうして眺めていたら!ビル群の隙間風に混ざって雪が降ってきやがった!ふと時間を見るとちょうど0時を回るところ!イブからクリスマスへ変わると同時に雪が降るって!

 しかもラウンジにいたヤツら全員が窓の外に降る雪に釣られて外に出てきてさ、「食い物と酒、ありがとうな!」なんて俺に挨拶してくるじゃないか!そんで最後はみんなでレットイットビーを揺れながら大合唱って、これクサと酒でラリッて夢見てんじゃねーの?ホントに現実!?

 ああそうだ、しかもこの騒ぎの後、日本から旅行に来ている女子二人に連絡先を聞かれるという大事故が起こったんだ。いや、俺、旅は一期一会が好きなんだよね、ごめんねって断ったアノ時の俺を打ち首獄門に処してやりたいけどな、今は。

 奇跡の一夜が過ぎた次の朝にその宿を出て、なんとなーく次の宿を探して歩いた。特に目的地があるわけじゃないから右も左もテキトーに歩いていると、たまたま大きな教会が目に入った。あ、そういえばバケツドラムのチャーリーが大聖堂前で叩いてるって言ってたな。これがその大聖堂だといいんだけどな、と思ったらチャーリーいた。元気に叩いて小銭稼いでたよ。

 …というところで一旦切りましょうか。後半もこれまた奇跡が起きるんだよねー。しばし待たれよ。