「おはよ…えっ?ちょっとなにそれあっはっはっはっは!!!」
ドアを開けてくれたオカは、俺の姿を見るなり玄関にヘタり込みながら腹を抱えて笑い始めた。
まぁそりゃそうだよね、休みの朝っぱらから電話で起こされ、玄関開けてみたら肩パットバキバキのボディコン着たブスな長身オカマがそこに立ってるんだから。
ひとしきり笑い転げて落ち着いたオカは、俺の手を引いて部屋に招き入れながら「一応言うけどさ、アンタ今何時だと思ってんの?」なんて無意味な文句を口では言っているものの、部屋はシャンプーとボディソープの香りでいっぱいだ。俺が到着するまでの30分でちゃんとシャワーを浴びて待っていたってわけさ、この女は。
「何か飲む?ビールかコーラかお茶があるけど」
お、お、お茶っ!と異常なテンションで元気に答える俺に「テレビ台の下の箱にクサ入ってるよ。彼氏のだけど」なんて嬉しいこと教えてくれるじゃないの。早速その箱を取り出して開けてみたところ、うーん、クサはクサなんだけど、なんつーか道産子みたいなショッパイ感じの植物片がワサッと大量に入ってるんだよね。
量はね、確かに満足よ。でもそのころってアムスから真空パックで直輸入のグラム8000円とか、そういうのも入り始めたころだからさ、見るからに飛べなさそうなネタを目の前に、ちょっとヘコんでしまったよ。まぁそもそも他人のネタなんだけどさ。
パイプも一緒に入ってはいたが、これからキメセクするなら二人でジョイントを回し合うってのもなかなか興奮するな!なんて考えながら、見つけたペーパーにそのクソネタを山ほど載せて太いのを巻き始めたところ、渋谷を出る前からずっとワクワクしちゃってる俺の手が汗でビッショビショでさ、まるでうまく巻けないのよコレが。
もたつきながらジグザグペーパーと戦っている俺に、お茶を持って来たオカが「で、アンタ何キメてんの?」って。そりゃバレるよな。軽く落ち際とは言え、まだバッキバキのキキメだし、見た目はもちろん言動もカタカタしちゃってるんだから。目玉なんてぜんぜん真っ黒だったと思うしね。
またもや異常なテンションで「エクっ!」と叫んだ俺の手には、とてもじゃないがジョイントとは呼べないような太いネジネジの湿った紙クズが載っている。口の中も乾いてるからノリもまったく役に立たない状態だ。我ながらヒドい作品にションボリだよね。
しかしそんなヘコんだ俺の心に気付くこともなく、オカは矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。「エク?エクスタシーってこと?それって何なの?どう効くの?それキメて今までどこで何してたの?まさか誰かとヤッてから来たとか無いよね?」…もう尋問だよ尋問。お茶で口を濡らしつつようやくすべての質問に答えたころ、とうとうオカは「その言葉」を口にした。
「ふーん…そんで今ソレって持ってるワケ?」
ネジネジジョイントモドキに火をつけ一服してから、俺はボディコンのスカート部分をたくし上げ、おパンティに仕込んであったネタをテーブルに置いた。ラップでテキトーに巻かれたいくつかの錠剤。今で言うMDMA、当時はエクスタシー、タマ、バツ、なんて呼ばれ方してたよな。
オカは俺のキンタマがおパンティからハミ出ていることに爆笑しつつも、少しギラついた目でその錠剤をうっとりと眺めている。今やゴリゴリの肉情夫である俺が持ってきた「セックスにも抜群に効く」というドラッグが目の前にあるんだ、ヨダレを垂らすのも無理はない。
アーンと開いたオカの口に一粒を放り込み、急ぐように俺も一粒を茶で流し込んだ。「追い」からのキメセクに、頭が沸騰するほど興奮していた。
オカはパジャマ姿、そして俺はすでに全裸。窓際のベッドの上で、二人で静かにキスをしながらジョイントを回した。6時を過ぎ、外からは人の生活音や鳥の鳴き声が聞こえてくる。女の匂いにクラクラしつつ、彼氏が置いて行ったというカラいネタを胸いっぱいに吸い込み………吐き出した。カーテンから刺しこむ朝の光にクサのケムリがマーブルアートを描き出す。

「きれい…」
泣きそうな声でオカがそう言った。モヤモヤと切り取られたサイケデリックな模様、幻想的で誘惑的なあのケムリ。ケミのカリカリとした落ち際の焦燥感を大麻がゆったりと制御してくれる。ありがたい、ありがたい。
同時に、クサのキマリを認識するにつれ、腹の底からムラムラと情欲が沸き上がってくる。目の前にはお気に入りのメスがいて、ジョイントをふかし合いながら玉のアガリを待っているというこの最高のセッティング。パーティから連結されたエロティックでファンタジックな異空間…。
顔から首、背中を通って腰から脚と、オカの体をいつも以上に優しく、確かめるようになぞる。キラキラとした朝日の中でフワフワとしたクサの浮遊感を楽しんだ。この「幸せそのもの」の世界、ああ…幸せだ…。
ー ピリッ…ピリピリッ…
柔らかな多幸感に包まれる中、体の中心に流れては消えていくシュワシュワとした炭酸のようなザワつく快感に気付く。少し鋭くて甘い心地よさ。呼吸さえもが気持ちいい。
そうか、幸せそのものの世界とはつまり、クサじゃなくってエクスタシーが追いついて来たってことだったワケね…。
あふれ出る愛に今にも泣きだしそうなほど潤んだ瞳で俺を見つめる上気したオカの顔を優しく包んでキスをした。始まったね、そうかもねと、二人でお互いの体を抱きしめ合った。どこまでが俺で、どこからがオカなのか…肉体の境界線すらわからなくなっていくような、もはや恐怖にも近い強制的な多幸感。これ以上ないほどに、オカという存在が美しく、そして愛おしく感じた。
オカは初撃だったが俺は追いだ、キスだけで大汗をかいたため軽くシャワーを浴び、頭を拭きながら部屋へ戻った。全裸で。そのついでに二人並んでベッドへ座ってタバコを吸った。俺は全裸で。
うまい。極上である。
オカはオカでそのタバコのうまさにヤラれている様子だ。吸うたびに目を見開いて驚いているのがとても可愛い。
そのままタバコを吸い続けたいという欲求と、オカを襲いたい情欲と、その前にクサを追加しなければならないという使命感がせめぎ合い、ジョイントの残りに火をつけてタバコと交互に吸いながらオカにキスをする、という忙しい自分に笑いがこみ上げてしまい、その俺の一人笑いにつられてオカも笑い始めた。二人して布団に倒れ込みながら、大した理由もなくしばらく笑い転げた。もう何をしたって面白いしエロいし楽しい状態だ。
笑いもひと段落したところで体を起こしてテーブルに準備しておいた勃起薬を指さし、「コレ、ケミ食ってても立つ薬。俺に飲ませて」と言ったら、オカはその怪しい錠剤を俺の口に放り込みながらペットボトルのお茶を口に含み、上からかぶさるようにキスをして口移しで飲ませてくれた。キマってたからかもしれないが、これには結構グッとくるものがあったな。
そのあとにもう一回ジョイントに火をつけて吸っていると、オカは髪をかき上げテレたように下を向きながら「あーもー、アンタのことちょー好き」なんて可愛いことをつぶやいた。それを見て、あーこいつアガってんなー…とは思ったけど、俺は俺で絶好調だし我慢できるハズもなく、持っていたジョイントを灰皿に投げ捨ててそのままオカを押し倒した。
潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめるその時のオカは、パジャマだろうが髪の毛ボサボサだろうが、とにかくひたすらに美しく愛おしい存在だと、心の底から改めてそう思った。