~ 女体は流れる水の如く1 ~
「いたたたた…いたーい…」
慣れた人ならスッと打ち込めるもんだとばかり思っていたんだが、固くスジ状になったタコへ力いっぱいグググと射し込むのが猛烈に痛いらしい。見ている俺が顔をしかめるほどの痛がり様だ。刺さったあとも静脈を探してあっちへグイグイこっちへグイグイ、針先を回している。あんなことして血管は大丈夫なんだろうか?シャブ中を続けるってのも意外と大変なんだな。
ようやく血を引くことができたサツキは一度大きく息を吐き、小さな声で「では押しまーす」と言ってゆっくり押し棒を押していった。これについても押し棒を押したり引いたりするもんだと思っていたが、彼女はほんの5秒ほどで注射器の中身をすべてその体へとブチ込んだ。
サツキは腕から針をブツッと抜いてポンプをテーブルに置き、残しておいた先ほどの消毒コットンで打ち込んだ場所を押さえてガックリとうなだれた。例えるなら真っ白になったあしたのジョーのような格好だ。そこから段階的にガクッ、ガクッと、頭が下がっていく。ヘタすりゃソファから崩れ落ちそうだ。
「…いいですよ、いいですコレ…」
邪魔してごめんね、今ってどんな感じなの?と訊く俺に、彼女はそのままの態勢で静かにそう答えた。俺がたまたま大阪で仕入れたそのネタは、どうやら彼女にとって合格点だったようだ。たぶん今はキンキンにラッシュが襲ってるんだろうと思い、しばらくほっといてあげた。
その間に彼女のシャベルを借りて自分用のネタを作る。針をハサミで落としたポンプの先端を軽く炙って角を取り、押し棒を抜いてシャブを入れる。量はテキトーだ。コップから水を引きパチパチと数回叩いてテーブルに転がした。ケツ入れの準備なんてこの程度、静注と比べて楽でいい。
ついでにクサを一服していると、サツキがハッと顔を起こし、渋い目で「ここはどこ?」みたいにキョロキョロし始めた。ケミカルのラッシュは我を失うことがあるからな、気持ちはわからんでもない。あっ、そうか、とつぶやいてニンマリ笑った彼女は、そのままソファの背もたれへグッタリと体を預け、ラオさんもぉ、入~れ~て?と可愛く首をかしげた。タオルを巻いただけの体は力なくSの字を描き、薄目で俺を誘うサツキの姿は妖しいほどになまめかしかった。