~ パイプ職人とポンプ職人 ~
大きく足を組みヨユーぶってタバコを吹かしていた俺だったが、浴室から水の落ちる音が聞こえた瞬間ガバッと立ち上がってひとりガッツポーズを決めた。容姿もさることながら、サツキの見事なジャンキーっぷりと性的なイカレ具合がまさに俺の理想とする女神級のクオリティだったからだ。
俺はスーツケースから取り出したバイアグラを冷蔵庫の缶ジュースで急いで飲み下した。アレは効き始めるまで30分ほどかかるから早めの服用が大事だよね。そんで改めてソファに座ると、飲み干した空き缶にチマチマと細工を始めた。
まずはプルタブをネジ切って、飲み口を上にしながら缶を横に倒す。そして底に近い側面の丸みを少しだけ押し潰し、そのヘコミに手持ちの鍵のギザギザを当てて親指でゆっくり押せば、いい具合の穴ができる。穴幅1ミリ、切れ幅1センチくらいが理想的だな。そのミゾを中心に一服分のクサを載せてライターであぶって飲み口から吸えば、こんな簡単なパイプでも十分に使えるもんだ。必要なくなったら足で踏み潰して捨てられるってのも便利だよな。
素敵なケムリをガッツリと吸い込み、息を止めながら特大テレビでAVチャンネルを探した。遠慮なくそこそこの大音量で他人のセックスを垂れ流しながら何服かしたころ、サツキが体にタオルを巻いて浴室のドアから出てきた。ソファの上で相変わらずボケーっと座ってる俺とアンアンうるさいテレビに「覗きにも来ないで何をしてるんですか!」と怒ったように笑ってたっけ。
大画面のAVとタオル姿の女。このビジュアルやべーな~なんてボンヤリした頭で考えながらサツキにもクサをうながすと、私はあんまり好きじゃないのでいいです、と言う。この道を注射器からスタートさせた人に多い症状だ。せっかくシャッキリさせるのにクサでボーっと酔うのが邪魔らしい。こんなの慣れの問題だと思うんだけどね。残念。
サツキはそのままソファへ腰掛け、ラオさんはもう入れたんですか?と訊いてきた。いやー、俺はケツから入れる人だからシャワーのときでいいや、と言うと、「じゃあ私が入れてあげましょうか!」となにやら楽しそうだ。さすがにそれは遠慮したが、今考えるとお願いしてもよかったかもな。
俺もシャワー浴びてくるから好きに食っててよ、と立ち上がりかけたところ、サツキは「入れるとこ見たくないんですか?」と少し驚いた様子だ。なんでも、注射するところを見て興奮する男が多かったらしい。確かに種類を問わず女がドラッグを入れてる姿ってのは狂おしいほどセクシーに見えるけどな。しかし、そんな場面はきっと人に見せたくはないだろうと勝手に思い込んでいたから、彼女のその言葉に俺もちょっと驚いた。
ケツかアブリでしかやらない俺はポンプの現場に居合わせることがほとんどなかったんで、彼女が自分のポーチから馴れた手つきでストローのシャベルと自前の注射器を取り出して準備するのを、せっかくなので興味深く観察させてもらうことにした。
まず彼女は洗面所からコップいっぱいに水を入れて持ってきた。普通の水道水だ。そして二つに折った万札の間にガンコロを転がしライターの腹でガリガリと砕いてポンプに詰めるんだが、その姿がまたサイコーにイカしてる。押し棒をガツッと口にくわえてシャベルで器用にネタを入れ、それをライトにかざして量を見る。少し付け足したら押し棒を戻してコップから水をほんのちょっと吸い上げ、それをまたライトにかざしながらその細い中指でパチパチと弾くんだよ。これぞ職人技、堂に入ってるよね。
パチパチ、パチパチと、鋭い目付きで注射器を睨みつけながら、しばらくネタを溶かすことに集中していた。できた!と笑顔を見せたがすぐにまた真剣な顔に戻り、これまた自前のゴムチューブ?みたいなやつを口にくわえ、器用に腕を縛り始める。沈黙の中、流れるように作業が続く。
ほどなく縛り終えると、次は針を刺す場所を指先で探しているようだ。もう打つ場所が無くて…なんてつぶやきつつ、タコが痛々しくスジになった腕のどこに刺すかを真剣に悩んでいるようだった。
「ここかな~、こっちかな~」なんてぶつぶつ独り言が止まらない彼女だったが、意を決したように真剣な面持ちで腕の消毒を始めた。もちろんその消毒液もコットンも自前である。そしてポンプを手に取り針先を上にして丁寧に空気を抜くと、先ほど当たりを付けた場所へそれをゆっくりと突き刺した。