キメセクファイル/サツキ2

~ シャブが大好きサツキさん2 ~

「こちらこそ私なんかでいいんですか?」

 タクシー乗り場へ向かう途中、俺みたいなオッサンでホントにいいのか?と訊くと、サツキは明るくそう返してきた。

 タクシーへ乗り込みあらかじめ予約していたラブホテルの名前を伝えたら、運転手も場所が分からずおろおろしだした。そこへ彼女が「前までは○○ってホテルだったところだと思います」なんてサラッと言ってのけたのにもオジサン驚いたよね。いやはやさすが若いローカル、馴れていらっしゃる。

 いざ車が動き出しても、俺なんか緊張で手汗はひどいわ口の中はカラカラだわ、なんとかクールをよそおって「ホント、キレイなコで驚いたよ」とか「実際にこうして会えるもんなんだね、ハハ」とかスカしちゃってんの。恥ずかしくてもう見てらんない。

 そんな緊張の中、サツキからかすかにケミカルなニオイがしてきた。「もしかしてもう食ってる?」って訊いたら、最後に食ったのが今日の朝方だって。そう聞けば確かに少しトロンとしてヨレてる感じではあるな。しかも食ったまま仕事してきたっつーから驚いたよ。

 実はここまでツツモタセの可能性も疑ってたから、俺はその話とニオイで少し安心していた。それでもまだ完全に信じたわけじゃないけどね。そんな話を運転手にわからないような隠語まじりにやり取りするのも、相手がどれだけの経験者なのかを推し量る目安になるよな。

 ここまででなんとなく分かったのは、サツキが俺よりずっとシャブ馴れしてるってこと。これは部屋でいろいろ話を聞きたいな、なんて考えていたら、意外と早く目的のホテルへ到着した。


「うわー!ラブホでこんな広い部屋は初めてです!」

 うん、頑張ったよ俺。そのホテルで一番広い部屋を取ったからね。入ってすぐ大きなリビングにソファとテーブル、特大テレビに冷蔵庫にコーヒーメーカーに、あとはなんだ、マッサージチェアもあったな。部屋の隅にあるドアを開けると大きめの洗面台と、意外に普通な感じのバスルームがあり、そのドアの前を過ぎた先には隣のベッドルームへ抜ける壁の間仕切りがあった。

 ベッドルームはワインレッド基調のゴテゴテとした重い色合いで、壁一面に大きな薔薇が描かれている。こんなのまるで下品なSMルームだよな。そんでそこにもリビングと同じような特大テレビが置いてあった。

 部屋を探索しながら彼女のコートを紳士的に預かりワードローブへ掛けた俺は、さも落ち着いているフリをしながらソファへ座ってタバコに火をつけた。もちろん「タバコいいかな?」とジェントルに訊くのも忘れない。緊張でタバコを持つ指先が震えているのを悟られないよう、紳士ぶった口調でとにかく褒めて褒めて褒めまくった。が、よく見たら先に座っていた彼女から離れるように、俺はソファの反対側の隅に座っていた。二人の間にもうひとり座れそうな距離だ。「落ち着いてますね~」なんて言われちゃったんで正直に「緊張して離れて座っちゃったよ」って言ったら「私もです」だって。メチャクチャかわいいじゃねーか!

 こうしてしばらくネタも食わずにお互いのことを話した。ちょいと年齢にはそぐわない重い話もあったし、十代前半からほぼ毎日ポンプでブッ込む生活を続けているのに壊れたことも前科もないっていうんだから大したもんだと思った。そんな中、なぜ掲示板で募集なんかかけたのかを聞いたら、フツーに相手が見つからないからだとか。こんな美人でもそこは苦労するもんなのかと少し驚いた。

 しばらく真面目なシャブ話が続いてしまったんで、「ごめんね、ネタ見せないと落ち着けないよね」と言っておもむろに立ち上がり、スーツケースからネタとドーグを取り出してテーブルに並べた。確か2gくらいはあったと思う。こんなんで足りるかな?って訊いたら、これだけあればさすがに十分ですって笑ってた。シャブを見たときのその笑顔がなんとも無邪気でかわいいのなんのって!

 そんで続けてちょっと笑わせようと思って「先に言っておくけど、実は俺ってパイパンなんだよね」とおどけてみせた。そしたらサツキがいきなり「私もパイパンなんですよ、ほら」って…。ソファに座ったままスカートをたくし上げたら何も履いてないし何も生えてないし…。思わず素で「うわー刺激的」って言っちゃったよ。

 俺の反応にケラケラ笑いながら、お先にシャワー頂きますとサツキがソファから立ち上がった。俺はしばらくクサ吸って待ってるよと言って彼女の姿を目で追うと、サツキは浴室の壁に背をもたれスカートを両手で少しだけ持ち上げながら、「シャワー、ノゾいてもいいですよ」とイタズラに笑ってドアの向こうへ消えて行った。