バツとガスでブットブでゲス4

 一粒800円のバイアグラで無限の笑気ガスを手に入れた俺に、ウーは「欲しければ自分で作れ」とボンベの使い方を教えてくれた。5分置きにやってきては遠慮なく風船を作れと言う俺に疲れたんだろう。そんで唐突に「メシ食ってくるから店番を頼む」と言って出て行ってしまった。

 俺はウーのマネをして部屋の隅に座り、仕方なく無限ガスを楽しんだ。風船を作っては吸い、吸っては作り、しまいには吸いながら作る、というスキルまで身に着けた。そうやってヘラヘラ笑いながらフロアを眺めていると、俺と同じように酒だかクスリだかでフラフラになったニーチャンがやって来てポケットからしぼんだ風船を俺に渡してきたんで、それに割れるギリギリ寸前までガスを入れて返してやった。当然、ニーチャンは俺に500円を渡そうとしたんだが、そこは玉で極上のハッピーフレンドリーになってる俺よ、金はいらねぇ、楽しみな!と、熱い握手をして見逃してやった。だって俺は無限ガスの権利を持つ選ばれし男。そして俺の身内は俺の分身も同じだ。それなら金なんか取れないってもんだろ!まぁ相手は名前も知らない赤の他人なんだけど。

 そしたら!そのニーチャンが友達を連れて戻って来やがった!そしてその友達も友達を連れて、そしてまた…。俺が店番を始めた途端、地下のガス屋は大繁盛さ!困ったことにドアの手前まで行列ができちゃったから、次からはちゃんと金取るからなーとそこに並んだバカどもに一言クギを刺し、ウーがまだ帰って来ないことを祈りつつ急いでその行列を片付けにかかった。

 ウーが一時間ほどして帰って来たあともしばらくガスで楽しんではいたんだが、残念なことに玉の効き目が落ちてきたこともあって、しばらく世話になったベッドマットとガスボンベに別れを告げてからそのアンビエントフロアを後にした。

 一階ではちょうどマサがDJをやっているところだったので、「今日はありがとう!そろそろ帰るわ」と目の前で叫んではみたものの、聞こえているのかいないのか、狂気じみた勢いでターンテーブルにかじりついているマサは、誰から見ても明らかにおかしい状態だった。汗にまみれた真っ赤な顔、 焦点の合わないギラギラした目玉、うーん、これは明らかにフツーじゃありませんな。俺が爆笑をこらえつつ「ナニ食ってんのー?」と大声で訊いたら、マサはガチガチに食いしばった歯を無理やり開けて「ケッ…ケタミンッ!」と全力で叫んだ。そしてまたターンテーブルへ目線を落とし、もう俺の言葉には反応しなくなった。

 マサ以外には挨拶をしなきゃならないようなヤツもいないから、もう自分の車へ戻ろうとフロアを抜けて中庭へ下りた。そこに集まる人混みの真ん中を突っ切ろうとしたとき、さっきガスをタダで分けてやったヤツラが一斉に握手とハグを求めてきてさ、その人数の多さに少しだけウーに悪いことしたなと反省した。そんで、まだ少しだけ残った玉の余韻を楽しみつつ、また二時間も運転してラオ君は無事おうちへ帰りましたとさ。


 ついでに笑気ガスについてのあとがきを少し。

 これを書いていて、このパーティの何年か前にも笑気ガスの経験があったことを思い出した。ほら、ケーキとかに使うホイップクリームのスプレー缶、あれに使われてた圧縮ガスの成分が笑気ガスとまるで同じだったんだよ。アホな先輩ジャンキーとスーパーでシューシュー吸いながら買い物したのも今となってはいい思い出だな。

 「これには笑気ガスが入ってるから吸えば飛べるんだぞ!」とうそぶくその先輩は100キロをヨユーで超える巨漢だったから、噴出孔にしゃぶり付いてジュルジュルとガスはもとよりクリームまで吸い尽くす姿が実に似合っていたのをよく覚えてるわ。

 ちなみに今は別のガスに切り替えられたらしいので、変に期待してホイップクリーム買っても意味がないから注意な。…実はひとつのブランドだけ昔と同じガスを使ってるんだけど、濃度は低くされたという話だからやはり試す意味はあんまりないと思うぞ。

 今は知らないが、以前は普通に売ってるところもあったんだよ。小さなカートリッジに笑気ガスが入っててさ、専用装置でホイップクリームの缶にガスを補充するの。そうすると最後までクリームを残さず使えるってわけ。

笑気ガスのカートリッジ

 用途としてはそれが正しいんだけど、あるアダルトショップのショーケースにショートケーキが描かれている小箱が飾られてたことがあってさ、ピンときて店員に訊いたらやっぱり笑気ガスでね。箱の横に並んでるアルミ製の器具でガスを噴射させて吸うってことなんだけど、その器具の呼び名が「クラッカー」「ガン」しまいには「ウェポン」なんて言うもんだから、男心をくすぐられて思わず1セット買ってしまったよ。

 うわ、ちょっと気になって調べてみたら、俺が買ったのとまったく同じウェポンがまだ海外だと売られてる…。

むかし持ってたウェポン

 続けて調べてみたら、笑気ガス自体はまだ日本でも入手は可能っぽいな。まぁ一応言っておくと、その物自体が違法でない場合でも本来の用途以外で使うと薬事法に引っ掛かったりするみたいだし、第一そこまで苦労して試すような大したシロモノじゃないってことは伝えておくよ。俺は玉とミックスしたから良かっただけで、単体だとホントに大したことねーし、「1-2分のあいだ飛ぶ」ってこと以外、ダンスにもオナニーにもセックスにも、どうにも使い道ねーからな、アレは。あ、歯医者はまだ使うのかな?

 もひとつついでに、タイやベトナムでも笑気ガスが規制されたってね。盛り場で普通に売られてたみたいよ。つーかさ、逆にあんな使い道も無いけど依存性も少なそうなモノを規制することに何か意味があるのかね?大麻にしろガスにしろ、酒で酔っぱらっていいのに他で飛んじゃダメな理由が知りたいわ。誰か分かりやすく教えて下さい。よろしくお願いします。→教授する