今までギャハハウハハとブチ上がってたはずの空気が一瞬で凍り付いた。ササキも「ま、まぁどちらかって言うと?みんなポンプ?かな?」なんて上ずった声を出している。みんなお互いの目をうかがいつつ、「そこはバラしちゃダメだったんじゃない?」みたいな雰囲気になってしまった。
クスリをやるヤツとやらないヤツの間に大きな壁があるように、シャブをやってるヤツの中でもアブリとポンプの間にはアノ世とコノ世くらいの隔たりがある。俺はアブリだからまだ人間やめてない、なんていう俺の変なプライドが、「ポンプなの?」=「お前ら終わってんな!」という形でつい漏れ出してしまったわけだ。このタイミングでそのセリフはダメだわな。ホントみんなに悪いことをしてしまった。
「ラオ君、やっぱシャブはポンプでガツンでしょ!ガハハ!」
そう言って場をなごませてくれたのは、さっきからブッコロスを連発しているシミズだ。
余談ではあるが、こいつは当時有名だったチームのひとつであるブットバスをマネしてケットバスというオフザケチームを作ったら数日でバレてメタメタにやられた上に全裸で土下座させられた、という逸話を持つ男で、その時の傷が顔中に残るヒトゴロシ的ビジュアルのひたすらブッコロス男だった。その話だって本当にシミズが体験した話なのかどうかすら疑わしいほど全部が全部テキトーしか言わないコメディアンで、ブットバスにやられたと言っていた傷も数分後にはアフガン戦争で捕虜になったときの傷に変わってたんだけどね。
「じゃ、お先にいかせてもらいます!」
そう言って真っ先にアブり始めたのは、本日最初のプレゼンターであるササキだ。テキトーに折って作った舟にネタを載せてライターでアブり始めると、またみんな静かになった。次は誰だ?時計回りか反対か?ネタはまだあるのか焦がしてないか?そんな心理が丸見えで笑ってしまったが、そういう俺だって口の中はもちろんカラカラだ。
チリチリチリ…シュゥゥゥゥゥ……
覚醒剤が気化する独特の音がすると同時に、ツバを飲み込む音や咳払いがあちこちから上がった。ササキは目玉をガン開きにして舟の上のネタをにらみながら、誰かの万札で作ったストローでシャブのケムリをカッパみたいに吸い続ける。みんなにジッと凝視される中、10秒か、15秒か、ガスを絞って小さく丸くした火を近付けたり遠のけたりした後、まだ白い蒸気が筋を作るその舟をワナワナと震える手で灰皿の上へ丁寧に置いた。そして、ライターを強く握ったまま息を止めていたササキの口からボワッ、ボワッ、ボハアアアアと続けて吐き出されたシャブは、空中に白い柱を作りながら天井へ向かって消えていった。
おお~!とか、濃いな~!とか、感嘆の声が誰からとなく漏れる。ササキはしばらく息を荒げて目をつぶっていたが、ふと大きくゆっくり深呼吸してから「…やっぱシャブっていいよね~」とギラついた独特の笑顔で俺たちを見まわした。