ポンプは爪のアカかタイヤのミゾか1

 値段は高いものの仕事はキッチリやってくれたイラン人を気に入った俺たちは、その後も何回か同じ番号を利用させてもらった。一度、桜ヶ丘駅のロータリーでの待ち合わせを指定されたときは、取引が終わって帰ろうとするイラン人の車を冗談半分に追いかけてヤサでも掴んでやろうとしたんだけど、住宅街の細い道を右へ左へとまぁ逃げる逃げる!事故でも起こされたらこっちもタマランので大笑いしながらすぐに諦めたけどね。

 結局すぐに仲間のツテで日本人プッシャーが見つかったから使わなくなったけど、ジャンキーってのは別ルートが見つかっても番号だけは取っておくもんで、最後の取引から3年後くらいかな?急なイベントでチョコが数本必要になったとき試しに電話してみたんだわ。そしたら記憶と同じような低い声で「モシモシ?」って出たんで「チョコ3本欲しいんだけど」って言ったら「……は?チョコ?誰なのお前?」って言われてそりゃもー焦った焦った!もちろん平謝りしてすぐ電話切ったよ。

 取引の回数も少なかったから後日談としてはこの程度しか思い出せねーな。あ、ネタに関しての話をまだしてなかったね。じゃあ少しだけ続きを書こうか。

 買ってきたネタを分配してチョコパッパで楽しんだ朝、仲間がバラバラと帰った後も俺と家主のササキは吸い続けながら寝落ちして、確か昼過ぎくらいに起きてまたお互いにチョコを出し合って吸い始めた。このチョコってのが、先にも書いた通り細長くパケってある珍しい形をしてんのよ。

 ペイントで作ってみたけど、イメージとしてはこのまんまの形。後にも先にもこの形状はここだけだったな。端っこから千切って吸うには最適な形だったし、しっかり1グラムずつパケられてたんで仲間と分けるのがヒジョーに楽だった。ゴロッとしたトラの塊も気分いいが、これはこれで便利だったな。

 あー、そうか、シャブのパケとエクスタシーの画像をどこからか引っ張ってこようと思ったけど、俺が今もそういうのを持ってると思われてもイヤだなぁ。「シャブ パケ」「MDMA」でそれぞれ画像検索でもしてくれ。玉のブランドであるメルセデスベンツは、名前の通り例のミツマタマークが入っている灰色の錠剤だよ。とは言っても裏モノなんてどれがホンモノかニセモノかなんて最後まで分からないし、キマればコレはブランドだとうそぶき、イマイチなら今回はパチられたと文句を言う、それがジャンキーってもんだよね。

 でだ、しばらくチョコで楽しんでたら、ササキの地元仲間から 「シャブパーティやろう」 って連絡が入った。このタイミングでこんな誘いが来るんだから、やっぱりジャンキーってテレパシーとか出してんだよきっと。あ、もちろんシャブパーティなんて呼び方は冗談で言ってるだけだからね。まぁ確かにみんなでシャブは食うんだけどさ。

 今から行くよ!って言ってから1服2服3服して1時間後くらいに出発した。その地元のたまり場になってるマンションに着いたとき、俺は初対面のヤツばっかりだったんだけど、なにかにつけて「ブッコロスブッコロス」言ってるのが一人だけいてさ、うわー完全にデンパだと思ってたら、後でそれはそいつなりの冗談だったとわかって心底安心した。だってさ、中身はみんな面白くてイイヤツなんだけど、見た目がまるでヒトゴロシみたいなのばっかなんだよね。

「ラオはポンプやんねーから舟つくろうぜ~」

 ササキがそう言ってアルミホイルをかわいくフリフリした瞬間、思わず「え?お前らポンプなの?」って口に出してしまった。今これを読んでるお前らならわかると思うけど、ジャンキーにもいくつかの階層があるじゃん?クサだけ派→クサと玉だけ派→Sはヤラネーけど他はなんでも派→アブるけどポンプはヤラネー派→なんでもありだけどポンプが一番好き派→そんでポンプ一筋の職人。その中で言えば、俺はポンプ手前まで何でもアリで、俺以外は全員が「結局ポンプが一番いいよね!」っていう職人手前まで上り詰めたセミプロ集団だった。