俺としては朝だろうが昼だろうがフツーに1枚ずつ食いたいところだったが、ササキの提案により控え目の1/4にしておこうという話でまとまった。確かに1枚食ったそばから寝てしまう可能性もあるような時間だからな、賢明な判断というやつだ。
「準備するからちょっと待ってて」と言うので俺はその間にリラックスできるようフトンを敷いたり残った空きカンの片付けをしていたんだが、もうやることも無くなったのでタバコに火をつけて窓の外を眺めながらボーっと考え事をしていた。思えば朝からLなんて食ったことねぇな、しかも少量となると酒に押されて眠った場合はサイケな夢でも見てしまうんだろうか?ある意味新しいアプローチだなこれは。ふむふむ。
ネタを食うことに対する興奮はLの大きさと同じく1/4程度の盛り上がりにはなっていたが、逆に落ち着いた状態で飛びの進行を客観視できることにウキウキしていた。いつでもどこでも誰とでも、ドラッグを食う前ってのはテンションが勝手にアガッちゃうもんでしょ。
「ラオちゃんおまたせー!……あれぇ!?」
スキップでもしちゃいそうなほど浮かれた状態のササキがニッコニコしながら広げたその手にはしっかりとLの破片が載っている。が、なぜか一枚だけだ。
もうね、一瞬で理解したよ。キッチンからリビングへ3メートル移動する間に、なんとササキは大事なLの破片を一枚無くしていたというワケだ。逆にさ、どうやって無くすんだよこの距離で。キッチンで一体何があったんだよマジ。
これを読んでいる皆も想像できると思うけどさ、そこからは二人してキッチンとリビングを這いずり回って探したよね、本気で。俺はその珍事に大爆笑しながら探してたんだけど、ササキはゴメンゴメンと謝りながら、もう必死よ。でもさ、1/4に切られたLの破片なんて落ちてるゴミやホコリと見分け付くわけないじゃん?5分もしないうちにササキの方がギブアップしちゃってね、「酔っ払ってるし目もショボショボだし、もう諦めよう」って新しいLを切って持って来た。そんで二人して「行ってきまーす!いただきまーす!」ってペロリんちょ。
そこからまたタバコ吸ったりビデオアニメを見たりしてたんだけど、残念ながらやっぱり眠さが勝っちゃってね、ふんわりと効いてきたころに「目ぇつぶると少しだけ曼荼羅が見えるねー」なんて言ったあたりで二人とも撃沈。結局昼過ぎまでガッツリ寝てしまったのよね。
でもさ!これがまた面白かった!予想していた通り、夢のリアリティがすごいのなんのって!
立体感あふれる森を走って逃げる俺と、それを追う巨大なクマ。背中をかすめる鋭い爪、折れる枝の音、右へ左へと木の間をすり抜けるスピード感やクマが走る重い振動までもリアルに感じながら逃げまくるパニックアクション風の夢。すげぇ!クッソ楽しい!
スッキリと目が覚めてからお互いが見た夢の話で盛り上がった。また酒でも飲みながらダラダラするつもりだったのだが、ササキが唐突に「映画でも見に行く?」と言い出したんで、俺は調子に乗って「じゃあ食っちゃう?」って言ったらアイツも苦笑いしながら「半分だけね、半分だけ」ってソッコー折れた。ラオとササキ、これ以上無いダメな食い合わせ。
半分ずつ食ってからまずは昼飯ということになり、ササキの運転でラーメンを食いに出かけた。ちょうどアガリに合わせるように豚骨ラーメンが運ばれて来て、これまた立体的な味と香りにブチのめされた。
麺の食感は球体、スープの塩気は立方体、風味やコクは円錐だったり菱形だったりと、ラーメンの情報がマル・サンカク・シカクの立体として頭に流れ込んでくる。湯気も手でつかめるほど立体的に見えるし、ドンブリに描かれている模様なんてまるでメソポタミアの立体壁画のように迫ってくる上に映画のように動き始めて壮大なストーリーを俺に伝えてくる。たかがラーメンを食うだけで一大エンターテイメントの始まりだ。

ふとササキを見ても、ハシで麺を持ち上げたまま目を見開いてなにやら驚いている様子だ。きっとチャーシューあたりから神秘的なメッセージでも受け取っているんだろう。俺も似たようなもんだからわかるぜその気持ち。
腹もいっぱいになったし、そろそろ映画館へ移動しようと車へ戻った。今日はお互いに半分ずつではあるが、朝の1/4から追う形になっているためにハデな飛びまではいかない。Lは連続で追うほどにどんどん効かなくなるからな。それを見越しての車移動だ、さすがササキ。
映画館でアニメをチョイスするのも熟達者であるササキの功績である。素晴らしい。タイトルはなんだったかな?GHOST IN THE SHELLだったかMEMORIESだったか、ドロッとしたサイバーアニメだったと思う。Lの効きが最高潮に達するタイミングで映画館に座って見始めた。
まぁただこのイベントは微妙だったな。映画自体はいいのかもしれないが、残念ながら一番前の席しか空いてなくてね、下から眺めるキャラクターはみんな縦長で揺れているし、画面の左右で別のストーリー展開があっても見えないし、何よりクビが痛くて大変だった。俺もササキも途中であきらめて音だけ聞きながら暗い地面をボケーッと眺める長い時間があったくらいだ。
映画館を後にした俺たちは帰りのドライブを楽しみながら家路についた。途中、ササキの友達であるジョーって黒人ハーフの話を聞いて腹を抱えて笑ったよ。ちょっとガッついてくるヤツらしくてさ、いきなり電話かけてきて「ネタ欲しいんだけど持ってない?」って聞かれて「ごめん、今は無いんだよね」って答えてんのに「そうかー、…ササキ君が残してる自分の分も無いの?」なんて遠慮なく爪を伸ばしてくるようなアホなんだって。無いって言ってんのに虎の子をもほじくり出そうとガッつく黒人ハーフ、キャラがおもろすぎる。まぁLをねだりにねだっている今の俺とさほど変わりないんだけども。
そういえばそういうネタを食う連中と小規模パーティとかやらないの?って聞くと、無いことはないけど、前ほどじゃないなーって寂しい答えが返ってきた。それなのに潤沢なネタは出回るのな。これジャンキーのフシギ。
そこからパーティとネタの話になって、どこかの山でも買ってパーティ専用のグランドを作ろうとか、その会場の奥に守護神の像を置こうとか、その像はパーティの盛り上がりやネタの効きをアゲてくれる力があるような「マガリ地蔵とかアガリ如来みたいなヤツにしようぜ!」って、ホントにくだらないことでゲハゲハ笑いながらのハイテンションドライブ!やっぱりドラッグは最高だぜ!
俺はその足でスーパーに寄って食材とビールを買うつもりだったのに、ササキはひとまず家に帰ろうとハンドルを切った。少し予想はしてたけど、「いったん家に寄ってLを追加して買い物しよう」ってことだった。ササキってヤツは本当にワカッテル!
家でまた半分ずつ食ってから近くのスーパーで肉と野菜とタマゴ、そして酒を買った。今夜はすき焼きだ。いいね、肉はテンション上がるよね、やっぱり。
店内が少し迷路みたいに見えたけど、なんとか買い物を済ませて家へ帰った。そしてすぐにすき焼きを準備して、それを食いながら映画を見た。今朝から1/4、1/2、1/2と、結局1枚以上は食ってる状態だ、ふんわりと何をやっても面白かった。
が!俺は!やっぱり!一枚食いたい!ねぇねぇもっと食いませんかぁ!?新たに飲み始めた酒が進むにつれ、先のジョーのような状態になった面倒な俺は、もはや歯止めがきくような精神は持ち合わせていない。それに対してササキがこう提案してきた。
「じゃぁラオにこの一枚あげるよ。一枚そのまま今食ってもいいし、持ち帰ってもいい。俺はもう充分だからさ、好きにしなよ」
そして俺の手にポトリと置かれた一枚のL。悩んだよね、コレには。二人でネタ食ってんのに自分だけ遥か先の次元に飛ばされるという寂しさというか恐怖というか。うーん、食いたいけどもったいないか…半分食うか?いや、それだとさっきと同じだ。むむむむむ…。
でもここで一枚食っちゃうのが俺っていうキャラだしね!食わないって選択肢は最初からないよね!エイッ!パクリんちょ!
そうして、その夜のメインイベント、いや、ナイトメアが始まったのですよ…。
