この世はキチガイだらけ ノ巻
帰国してすぐ、というわけでもなかったのだが、三鷹にあったマンションの一室でオカを抱いた。旅先での情事をなぞるように、二日間ずっと、お互いをむさぼり続けた。
何度かそんな逢瀬が続いたが、しかしそんなこともだんだんと間が空いていき、
「今週はカレ来ないから」
なんてメールが届くたびに俺が直接オカの部屋へ行く、たまーに会ってヤる、俺たちはいつの間にかそんな曖昧な関係になっていった。
お互いにもともとが真面目な男女交際に重きを置くような性質を持ち合わせていなかったし、そもそもの出会い自体が仮想空間での文字のやり取りから始まったってのもあって、メールでワチャワチャやってる方がずっと「らしい」関係だと感じる部分が大きかったのもある。
でもやっぱり、上司との不倫をズルズルやめられないオカと、それに乗じて微妙な立ち位置をキープする俺という、なんともアンバランスなバランスが取れてしまっていた、というのが正直なところだ。オカを挟んだ不倫と浮気、なんという罰当たりな三角関係。
オカは俺に抱かれるたび、「アンタのことすっごく好きだよ」って照れながら言ってくれたが、それでも明日はカレが来るからって、ヤり終わった俺をドアから追い出した。なんだよ、もう一発ヤらせてくれたっていいじゃねーか。心の中でそう愚痴りながらも、チクリと感じた心のササクレも井の頭線に乗り込むあたりにはすっかりなくなっていて、また来月あたりヤりに来るかーなんて考えるほど、けっこうあっけらかんとしながらもしっかりと繋がった不思議な関係が出来上がっていった。
そういや、一度だけ面倒なことが起こったな。いつもの調子でヤリまくってたらオカのピッチ(!)が鳴ってね、チンコが入ったまま出させたらやっぱり上司のカレ。俺はそーっと体を離し、オカの言葉をそばで聞いていた。
「なに?は?下にいるの?なんで?会いたいとかバカじゃない?アタシもう寝るから帰って。イヤです、上がって来てもドア開けないから。は?浮気?してねーよ!誰もいねーよ!いないって!いい加減にしろよ!来んなって!絶対ドア開けないから。来たらもう別れる。マジで別れるから。ほんとウザイこういうの。自分の家に帰って。奥さんによろしくバイバイ。いいから帰れって。話なんてねーよ。おやすみ。」
「ごめんねー、こいつたまにこういうウゼーことすんのよ…アンタなにやってんの?」
俺はその会話を聞きながら、大急ぎでジーパンとシャツを着て部屋をうろうろしながら安全な逃走経路はどこかを探し続けていた。ここはマンションの4階、雨どいを使って下りても途中で落ちたらシャレにならんし、むしろベランダ側だと見つかる可能性もある。思い切ってドアから静かに出て、シレーッと階段を下りたらバレないんじゃないか?
そんなチキンハートを見抜かれ、「カレもアタシには弱いから絶対上がって来ないよ、大丈夫」なんて抱き寄せられたが、こっちはチンコが縮こまってセックスの続きどころじゃない。
だって相手は関東一円で一番デカい暴走族の特攻隊長までのし上がったこともあるという超武闘派サラリーマンだということは前情報として知ってたからな。あっちは不倫でこっちは言うなればオカ一本だから理屈としては俺が優勢ではあるんだが、されど相手が相手だ、話なんて通じないだろう。第一俺は、女のために身を挺して暴れ者に向かって立ちはだかり「不倫、ダメ、ゼッタイ!」なんて胸倉を掴めるような立派なキンタマは持ち合わせてはいない、ただのひ弱なジャンキーなのである。
トッコータイチョーなんて言われてビビらないわけないでしょ!なんて情けないことを平気で言う俺の頭をギュッと抱きしめながら「かわいい!」なんて嬉しそうにキスをしてくる肝っ玉オカちゃんがちょっとだけ怖かったよね。まぁ結局そのあともヤッたんだけども。
そんな若干の緊張感に包まれたオカとの関係だったわけだが、この一件を境に、よりブラッシュアップされた関係を構築するに至った。メールや電話が来る、または俺が送る、イコール、三鷹でセックスをする、という構図がきっちりと出来上がったのだ。
カレの襲来を避けるため、連絡は「今から来い!」と「今から大丈夫か?」の二通り。なんだか軍隊式のやり取りのように事務的な、いやむしろ「それ」目的なのは明確だから、ある意味情熱的でストレートな連絡の方法へと変わっていったわけだ。
同時に、その一瞬のチャンスを逃さない、逃せない、という状況が、オカの気持ちに火をつけたのかもしれない。以前までのスキスキビームが威力を増してきたのだ。
「中で出しちゃえばいいのに、アノ時みたいに」「最近はカレとシてないんだよ」「おい、アタシと結婚しろよ」「アンタはアタシの情夫」「一緒にジャマイカへ逃げよう」
本気かウソかわからないが、ビームの出力上昇にもはや歯止めがかかっていない。それに引くことこそなかったけど、全力で受け止める器量も俺には無かったよね。
さて、そんな生臭い生活が続いていたある日、知り合いの女性からとても変な依頼を受けた。俺がいつか酒の席で話したという「一風変わった世界」ってやつを少しだけ覗かせてくれないか、というトンチみたいな話。
どこで誰に何の話をしたかなんていちいち覚えちゃいなかったが、「SとかMとか、エッチな感じのパーティがあるんでしょ?」って言われて思い出した。ああ、そういう変な集まりが本当にあるんだよって、確かに酒の席のネタとして話したことあったわ…。
その人は別荘持ちの上流階級育ちで都内の有名女子大学に通っているような、いわゆる箱入りお嬢様。これから社会に出る前に、つまりは何か変わった体験をしてみたい、という超次元的発想だったみたいだけど、フツーのコンパですら一回行って怖かったとかいうレベルのウブっ子に変態パーティってハードル高すぎないか?
最初はもちろん断ったし、やめた方がいいよって説得もした。でも聞かなかった。俺しかそういう道で頼れる人は他に知らないし、あなたが一緒なら安心だって。もうさ、真面目過ぎて逆に頭おかしいだろコイツ。「そういう道で頼れる人」って、そのコの中で俺という存在はどういう感じなのかも理解不能だし、たいして深い付き合いでもない俺のどこを見て安心なのか疑問しか沸かねーしよ。
こっちのそんな悩みもつゆ知らず、熱意のこもった真剣な眼差しで訴えてくるんだが、その奇妙な説得を受けているうちにだんだん馬鹿らしくなってきちゃってね、そこまで言うなら一回来てみれば?って俺の方が折れちゃった。まぁ箱の中じゃ危険なこともそうそう無いだろうし、帰りたくなったらタクシーで帰ればいいってね。
ってことで、その週末の夜に渋谷駅で待ち合わせた。そしたらお嬢様が二人に増殖してた。そのもう一人はお嬢様①のご学友とのこと。おかしいよね、話が違うよね。なんなら最初のコとパーティ後にヤれるかな?とか思ってたのに、目ぇキラキラさせたお嬢様二人のホストですよ完全に。
しかし来てしまったものはもう仕方ない。ひとまずセンター街奥のバーに入ってカックテールなんぞを飲みながら、今夜開かれるパーティの内容を話した。それでビビッて帰ってくれれば御の字だったんだけどね、お嬢様二人で意地の張り合いだよ。アナタが行くならワタシも行くって、お互いに引かないの。
そんなくだらない駆け引きを眺めている小一時間、俺は俺でさっきトイレで飲み込んだエクスタシーがギュンギュンに効いてきちゃって大変なんだからマッタクモー。
しかもさ、待ち合わせからずっと「似合ってますね」とか「キレイですね」としか突っ込んでくれないんだけど、そんときの俺ってガチガチに女装してんのよね。
時代が時代だったからさ、肩パット入ってるボディコンにハイヒール、紫のシャドー入れて真っ赤なルージュってなもんですわ。ひどいでしょコレ。
新たな扉を開く期待に胸をときめかせる絵に描いたようなお嬢様二人が、パーティドラッグでグルグルにブッ飛んでる身長180センチ超えのヒールボディコンオカマと渋谷のシャレオツなバーでカクテル飲んでんのさ。その状況だけでもう充分すぎるほどの社会勉強、むしろ免許皆伝でしょ。
この状況に満足したら二人で仲良く帰ってくれないかなって途中までは本気で思ってたんだ。だけどこれが玉が効き始めちゃったあたりから「このコたちはワタシが守らなきゃ!」みたいに変な使命感すら沸いてきちゃってね、0時前にはバーを出て、二人を背中に引き連れてそのSM的な箱へ向かったの。場所は確かオンエアウエストだったかな。
到着したときにはすでに箱の外も変態たちであふれかえってた。右も左も変態だらけ。オカマ、オカマ、ドラァグクイーン、オカマ。つまりはほぼオカマの集まりよね。
そんな変態たちをかき分けて箱へ入ると、中はもっとすごいことになってるわけ。耳鼻口舌から乳首からチンコまでピアスだらけのオッサン、頭からつま先までフルのラバースーツの女(?)、一目でソレとわかるミストレス、天井から麻縄で吊るされた裸の女をクルクル回す和服の老人、背中に貫通させた太い針にワイヤーを繋いで空を飛ぶお兄ちゃん…。
あーもー相変わらず興奮させてくれるわこの空間。
玉でギュインギュインの俺は入場直後からすでに鼻息フンフン。そして、連れてきたお嬢様二人はそれを見た瞬間から硬直ね。ほら、だから言ったのに。
壁際から動かなくなったそいつらを放置して、俺はホールをうろうろしながら話し相手を探す。フェイスマスクしたM男を蹴り飛ばしている女王様に声を掛けたらいきなりボディコンスーツ越しにチンコを撫でられ、耳元で「アナタ、化粧を覚えたらもっとキレイになれるわよ」なんて言われてガマン汁ビシャビシャになったり、拘束具を着けた黒人男のアナルにぶっといズッキーニが出し入れされているのを50センチくらいの距離で眺めていたら「アナタもやる?」なんて誘われたりと、充実した変態時間を過ごしていたんだが、先のお嬢様二人がそんな俺を見つけて「私たち帰ります…」って。
どうやらステージ前に三人並んだ全裸の男がストリップを見ながら猛烈にチンコをしごいていたのを見て二階席に避難したら別のスーツ男が「自分でするところを見ていてもらえませんか?」ってズボンを脱ぎ始めるなど、なかなかハードコアな未知への遭遇は体験していたらしい。
いやいやしかし本番はこれからだぞ!?始発前が一番アツいのに!
そんな俺の熱意は残念ながら伝わらず、その二人はフラフラと箱を出てタクシーで去って行った。
その後は…くそっ、この話はネタの宝庫すぎて終わりが見えねーな。流血SMショーとかミストレス4人がかりでM男をセッカンとかいろいろあったんだが、それはまぁいいや。
とにかく玉でグルグルしたままエロいことをひたすら眺め続けた数時間が終わり、朝方になって箱を追い出された。
最後に見たのがランジェリー姿の美女二人によるレズプレイだったから、そりゃもうムラムラが止まらなくてね、カラスがカーカーと鳴きながらゴミ袋をあさる朝の道玄坂を下り、車を停めてあった駐車場へ向かった。
途中、電話ボックスを見つけた。フラッと入り、テレホンカードを入れ、番号を押す。
プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル
「…もしもし?」
おはよう!電話に出たってことは彼氏はいないね?じゃあ今から行くよ!
日曜の早朝5時、俺の車はオカの住む三鷹へと向けて走り始めた。